日次目標で、トップ営業は失速する 〜下位層は11.7%上昇、上位層は8.1%低下〜
1時間あたりの売上に応じて決まる歩合率を、月単位ではなく日単位で判定した場合、営業担当者の行動はどのように変化するのか。スウェーデンの家電量販チェーンを対象にこの問いを検証した研究の知見をもとに、判定周期の違いが売上と販売される商品構成の双方に及ぼす影響を読み解き、制度変更の効果を詳細に確認することの必要性を解説します。
要旨
- 歩合率の判定周期を月次から日次に変更したところ、営業担当者の下位25%では1時間あたりの売上が11.7%上昇した一方、上位25%の売上は8.1%低下しました。加えて、上位層では、高単価・高粗利商品の販売が減少し、低単価商品の販売が増加しました。目標水準や歩合率は維持したままでも、成績を確定させる周期を変更するだけで、売上と販売される商品構成の双方が変化したことになります。目標や報酬の判定周期を変更する際に、全体の売上だけでは効果を判断することはできません。その変更が誰の行動をどのように変えたのかを、成績の層ごとに分けて確認する必要があります。
はじめに
営業目標は、月単位で管理されることが少なくありません。しかし、成果を月次で確定させるか、より短い周期で確定させるかという違いは、営業担当者の行動に影響を及ぼすのでしょうか。
米ハーバード大学ビジネススクールと香港城市大学の研究チームは、この問いを、スウェーデンの家電量販チェーンを対象とする調査で検証しました。経営学の主要学術誌『Management Science』に2021年に掲載された研究で(Chung et al., 2021)、分析対象は86店舗で働く337名の営業担当者でした。
この企業では、営業担当者の1時間あたりの売上に応じて5段階の歩合率が設定されており、従来は、1ヶ月分の売上をその月の勤務時間で数で割ることで1時間あたりの売上を算出し、これによりその月の歩合率を決めるという運用をとっていました。
実験では、同じ計算を1日ごとに行い、月単位ではなく日単位で歩合率を決める方式へ変更しました。目標水準と歩合率は変更せず、成績を判定する周期だけを変えています。 5店舗26人の営業担当者は月次判定のままとし、比較対象としました。

表1 月次判定と日次判定の違い
毎日の初期化による下位層の売上上昇
月次判定のもとでは、月の前半に売上が伸びなかった場合、残りの日数で上の歩合率へ到達する見込みが薄くなります。追加で努力しても報酬の増加が見込めないと判断し、月の途中で努力の水準を下げてしまう。こうした行動が、下位層において生じていました。
日次判定に変更すると、昨日までの成績は今日の歩合率に影響しません。昨日は上の歩合率に到達しなかったとしても、今日はゼロからあらためて積み上げていくことができます。この毎日のリセットによって月の途中で諦める行動が抑制され、下位層は販売点数を増加させました。
結果として、下位25%の売上は11.7%上昇しています。
下位層の不振は、能力や意欲の問題として扱われがちです。しかし、原研究の結果が示しているのは、その一部が報酬の判定方法に起因していた可能性です。上の歩合率に届く見込みが薄くなった後の期間がいわば消化試合となってしまうという構造は、個人の努力のみで解消できるものではありません。
上位層で生じた低単価商品への移行
他方、上位25%の売上は8.1%低下しました。
これは、上位層が単に働きを抑えたことによるものではありません。日次判定へ変更された後、上位層では低単価商品の販売数量が増えた一方、高単価・高粗利商品の販売が減少していました。
月次判定のもとでは、その日の売上が低くても、翌日以降に高単価商品の売上を立てることができれば月間の実績を挽回できます。一方、日次判定では、その日の成績が翌日に持ち越されません。長い時間をかけて高単価商品を売るよりも、その日のうちに成果として計上される商品の販売に意識が向きやすくなります。
原研究から、低単価商品のほうが目標を達成しやすかったとまで断定することはできません。ただし、歩合率を日次で判定する制度のもとで、上位層の販売する商品構成が低単価商品へ移行したことは確認されています。返品は増加しておらず、上位層は強引な販売を増やしたのではなく、売る商品の組み合わせを変えていたのです。
全体の売上の上昇と、上位層の売上の低下
日次判定への変更後、全体の販売生産性は4.9%上昇しました。 平均だけを見ると、制度変更は成功したように見えます。
しかし、成績の層ごとに見ると、異なる結果がみてとれます。下位25%では1時間あたりの売上が11.7%上昇した一方、上位25%では売上が8.1%低下しています。
さらに、上位層では、高単価・高粗利商品の販売が減少し、低単価商品の販売が増加していました。つまり、全体の売上は増えても、上位層の売上と商品の構成は悪化していたのです。
全体の平均だけでは、こうした違いは分かりません。制度変更の効果を確かめるには、全体の数字だけでなく、成績の層ごとの売上と、売れた商品の内訳を確認する必要があります。
なお、中間の二つの層では、統計的に意味のある変化は確認されていません。明確な変化が表れたのは、成績分布の両端に位置する層でした。

表2 日次判定が下位層と上位層に与えた影響(※1)
成績層で分けて見る、目標周期の効果
この企業では、判定周期の短縮が下位層にはプラスに、上位層にはマイナスに働きました。
したがって、目標や報酬を判定する周期を変更する場合は、全員を対象として一斉に導入し、全体平均だけで成否を判断することは適切ではありません。一部の店舗やチームで試行し、成績の層ごとの売上と商品構成を確認したうえで適用範囲を広げる必要があります。
原研究で日次に変更した目標は、売上に連動する歩合率と結びついています。そのため、固定給が中心の日本の法人営業に、同じ結果をそのまま当てはめることはできません。
ただし、評価期間を短くすれば全員の成績が上がるとは限らない、という仮説は、日本の営業組織においても検証に値します。売上だけでなく、アポイント数や商談数を日次で管理する場合も、一日の件数を満たしやすい行動へ偏っていないかを確認する必要があります。この点は原研究が確認した結果ではなく、研究結果から導かれる検証仮説です。
おわりに
歩合率を判定する周期を変更しただけで、下位層の諦めは抑制され、上位層が売る商品は変化しました。
全体の販売生産性は上昇しています。それでも内訳を確認すると、上位層の売上は低下し、高単価・高粗利商品の販売も減少していました。平均の改善を追求するだけでは、この変化を捉えることはできません。
目標や報酬の周期を変更するのであれば、全体の売上だけで効果を判断すべきではありません。成績の層ごとの売上に加え、高単価・高粗利商品の構成比まで分解して確認する。同じ制度変更が、誰の行動をどのように変えたのかを見極める必要があります。
注記
※1 下位・上位25%は、実験前の1時間あたり売上で区分しています。11.7%と−8.1%は各層への推定効果であり、売上水準や総額の比較ではありません。中間層では有意な効果は確認されていません。
本稿は、以下の研究をもとに構成しています。
Doug J. Chung, et al. (2021) ‘The Effects of Quota Frequency: Sales Performance and Product Focus’, Management Science, Vol.67, No.4, pp.2151–2170.
※本レポートの内容を引用・転載される場合は、出典として「営業組織科学総合研究所」を明記してください。