「信頼されています」は、顧客の本音と一致しているのか 〜営業担当者と顧客、117組のデータから見る信頼の認識差〜
「あのお客様とは、信頼関係ができています」。営業担当者からこのように報告があったとき、顧客の側も同じ評価をしているとは限りません。本稿では、営業担当者と顧客の双方に尋ねた研究をもとに、信頼の認識差と営業成果の関係を考えます。
要旨
- 顧客からどの程度信頼されているかについて、営業担当者の認識と顧客の評価が一致するとは限りません。営業担当者と顧客117組を分析した研究では、営業担当者が信頼を過大評価するほど、顧客の関係満足度が低いという結果が示されました。そして満足度は口コミ・推奨とも結びついていましたが、売上との関係を裏づける統計的な証拠は限定的でした。営業担当者本人の報告や売上の推移からは、顧客の評価との差は捉えられません。この差を確かめ、不満が蓄積する前に対応を見直すために、顧客自身の評価を直接確認する必要があります。
はじめに
定期的に面談ができ、相談の連絡も来る。契約の更新も続いていれば、営業担当者が顧客との関係を良好だと判断するのは自然なことです。
ただ、顧客が取引を続ける理由は一つとは限りません。価格や製品の仕様が合っているために契約を続けながら、営業担当者の説明や対応には不満を感じていることも考えられます。取引が続いているという事実だけでは、担当者への信頼まで判断することはできません。
顧客との関係を営業担当者本人の報告だけで把握していると、このくい違いを見落とす可能性があります。「信頼されている」という報告について、その根拠と、顧客自身の評価を確認する必要があります。
営業担当者の認識と、顧客の評価を照合する

図1 信頼の過大評価と営業成果の関係を検証する研究モデル
出典:Mangus et al.(2021), Fig.1(p.38)をもとに作成
この問題を検証したのが、米Mangusらの研究です。論文は2023年に『Industrial Marketing Management』に掲載されました。本稿では、本文・統計表・質問項目を確認できる、2021年にSSRNで公開された稿に基づいて紹介します。
研究チームは、大手輸送・物流企業の営業担当者と、その顧客を調査しました。顧客の回答を得た後に、その顧客を担当する営業にも質問し、顧客ごとの売上実績と照合しています。分析対象は、営業担当者80人とその顧客からなる117組でした(※1)。
原研究でいう「信頼の過大評価」とは、顧客が回答した信頼の程度よりも、営業担当者が「自分は信頼されている」と高く見積もっている状態です。顧客には、営業担当者の判断を信頼しているか、経験が豊富で適切に判断できると思うかなどを尋ね、営業担当者には、その顧客から自分がどう評価されていると思うかを尋ねています。両者が対応する3つの質問に7段階で答え、その差を分析に用いました。
ここで測っている信頼は、主に営業担当者の判断や経験への信頼です。面談中の親しさや、会社・製品への満足度と、そのまま置き換えることはできません。
信頼を高く見積もる営業担当者と、満足していない顧客
原研究がまず検証するのは、信頼の過大評価と顧客満足度の関係です。顧客満足度は、営業担当者との関係全体や、その担当者が自分に対して行っている取り組みに、どの程度満足しているかという回答から測っています。
分析では、信頼の過大評価が大きいほど、顧客満足度が低いという結果が示されました。この関係は、分析上の偏りへの補正の有無にかかわらず、統計的に有意でした。
原研究は、その背景として、営業担当者が顧客との関係に安心し、関係を維持するための対応を減らしてしまう可能性を挙げています。営業担当者が十分に信頼されていると考えていても、顧客は必要な対応を受けていないと感じることがあり得ます。
この説明を実務に当てはめると、過去に何度も提案が通った相手だから今回も通るはずだ、と営業担当者が見込んでしまう場面が考えられます。顧客には前回の対応への不満が残っていても、営業担当者がそれを把握していなければ、対応を見直すきっかけがありません。
売上と口コミでは、結果の確かさが異なる
次に、研究チームは顧客満足度と、売上・口コミとの関係を分析しています。売上には、企業のCRMに記録された、その顧客からの過去1年間の売上を用いました。
口コミについては、営業担当者との関係を他者に話す頻度や、その担当者・会社を他者に勧める頻度を顧客に尋ねています。顧客による自己申告であり、紹介件数や紹介経由の受注を実績データから数えたものではありません。
分析の結果、顧客満足度が高いほど口コミの回答値も高いという関係は、補正の有無にかかわらず有意でした。一方、満足度と売上の関係は、補正を行った分析で10%水準の有意性にとどまり、補正を行わない分析では有意ではありませんでした。
したがって、原研究から「信頼を過大評価すると、必ず売上が下がる」とまでは言えません。ただ、過大評価は顧客満足度の低下と関連しており、口コミや売上に波及しうるリスクとして、顧客の信頼度を確認する習慣を持つことが望ましいと考えられます。
関係が深い顧客ほど、ずれの代償は大きい
原研究では、営業担当者と顧客の関係の深さを示す指標も用いています。これは、関係がどの程度の段階にあるかと、やり取りの頻度を組み合わせた指標であり、単に取引年数や面談回数だけを測ったものではありません。関係の段階は、相手を知るために接触している段階から、取引を広げ、関係の継続を見込む段階へと区分されています。
この指標が高い、つまり関係が進み、頻繁にやり取りをしている顧客ほど、信頼の過大評価と顧客満足度との負の関係が強まっていました。一方、市場の変化に関する指標が高く、関係性においてその影響を受けている場合には、この負の関係が弱まる結果も報告されています。これは、顧客が営業担当者の判断について、担当者個人ではなく外部要因によるものと受け止めやすくなるためだと解釈されています。
原研究は、関係が進み、頻繁にやり取りする顧客ほど、営業担当者が自分たちとの関係をよく理解していると期待すると説明しています。その分、信頼を過大に見積もった担当者の対応に、不満を感じやすくなると考えられます。
この研究結果に従えば、関係の深い顧客こそ、営業担当者の対応をどのように評価しているかを優先して確認すべき対象だと考えられます。
顧客との関係を振り返る場に、顧客自身の評価を加える
この知見を営業管理へ取り入れるとすると、顧客ごとの定例会議に、営業担当者の認識と顧客の評価を照合する時間を設けることが考えられます。
まず、営業担当者が顧客との関係をどのように捉えているか、その根拠とともに記録します。「信頼されている」と判断したのであれば、どの場面でそう感じたのかを尋ねます。面談の回数なのか、説明への反応なのか、顧客から任された仕事の内容なのか。具体的な出来事にさかのぼることで、判断の根拠が分かります。
次に、担当者の判断をどの程度信頼しているか、その理由とともに顧客に尋ねます。営業担当者には、顧客の回答を見る前に、返ってくるであろう評価を書き出してもらいます。そのうえで両者の回答を並べ、くい違いを探します。
評価に差があれば、理由となった出来事を確認します。説明が不足していたのか、約束した期日を守れなかったのか、それとも顧客の期待が変わっていたのか。点数の差だけで担当者を評価しても、担当者が次に何を改善すればよいかは見えないため、具体的な項目を突き止めます。
改善が必要な項目は、誰がいつまでに対応するかを決めて顧客に伝えます。たとえば「回答が遅い」という指摘であれば、回答期限を顧客と合意し、実際に守れたか、その対応で十分であったかを次回の会議で振り返ります。
また、顧客側の一人の回答を、その企業全体の評価として扱わないことも必要です。購買担当者、利用部門、意思決定者で接点や期待が違う場合は、誰の評価を確認したかを記録します。
おわりに
「信頼関係ができている」という営業担当者の報告は、顧客も同じ評価をしていることまでは保証しません。原研究が示したのは、営業担当者が信頼を高く見積もるほど顧客の満足度が低い傾向があること、そしてその傾向は、関係が進み、やり取りの多い顧客ほど強いことです。
ここから、両者の認識の差を確認すべきであるという一般論に加え、関係の浅い顧客ではなく営業担当者が最も安心している顧客ほど評価の確認が必要だという知見が得られます。また、顧客の満足度は口コミ・推奨と結びついた一方、売上との明確な関係は確認されませんでした。売上が維持されていることは、関係が良好であることを示すものであるとは限りません。まずは、営業担当者が良好な関係だと考えている顧客について、その判断の根拠と顧客自身の評価を照らし合わせ、差が見つかった場合には具体的な対応に反映することが、関係の維持・強化において重要となります。
注記
※1 原研究は単一のB2B企業における営業担当者・顧客の調査と売上データに基づきます。そこでは、同じ関係を長期に追跡する縦断調査ではなく、横断的なデータを用いている点を限界に挙げています。分析結果だけで因果関係を確定したり、他業種にも同じ結果が当てはまると判断したりすることはできません。
本稿は、以下の研究をもとに構成しています。
Stephanie Mangus, et al. (2021) “We Are Not on the Same Page: The Effects of Salesperson Trust Overestimation on Customer Satisfaction and Relationship Performance”. Available at: https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3929707
なお、同研究は2023年に『Industrial Marketing Management』に掲載されています。
Stephanie M. Mangus, et al. (2023) “We Are Not on the Same Page: The Effects of Salesperson Trust Overestimation on Customer Satisfaction and Relationship Performance”, Industrial Marketing Management, Vol.109, pp.58–70. Available at: https://doi.org/10.1016/j.indmarman.2022.12.009
2021年のSSRN公開稿と2023年の掲載版では、公開されているモデルの説明や金額換算値に違いがあります。本稿は両版を混在させず、SSRN公開稿で確認できた分析結果を紹介しています。
※本レポートの内容を引用・転載される場合は、出典として「営業組織科学総合研究所」を明記してください。