導入の背景

DX推進大学が直面した採用業務の限界

四国の中核大学として、温かくファミリーな雰囲気と、先進的な取り組みを両立させている国立大学法人香川大学。「西の香川大学」と称されるほどDX推進に力を入れ、全国の大学からも注目を集める存在だ。

しかし、その先進的なイメージとは裏腹に、人事課では長年アナログな採用業務に多くの時間を費やしていたという。

篠原氏:「人事の仕事は、すごく昔ながらのやり方なんです。採用のときも、まず書類を集めて、それから実際に会って面接して…と、全部手作業で進めるので、とても時間がかかるんです。」

特に、年に一度の法人職員採用試験では、筆記試験を通過した受験者全員と面接を行っていた。その数は多い時で200名から300名にものぼる。

造田氏:「受験者が300人いれば、全員と面接していました。3つの部屋に分けて、各部屋に面接官が3人、1グループ5~6人のグループ面接を1週間ずっと続けていたので、本当に大変で、限界を感じていました。」

面接官だけでなく、当日の案内や誘導を行う運営スタッフも必要で、人事課全体の大きな負担となっていた。

書類では見えない「個性」。二度手間が生んだ採用の課題

採用における課題は、工数だけではなかった。特に中途採用では、書類選考の限界を感じる場面が多々あったという。

造田氏:「書類だけだと、その人の学歴や職歴くらいしか分かりません。実際に会ってみると、思っていた印象と違うことがよくあって、ギャップを感じることが多かったです。」

以前、採用活動を行った際には、書類選考を経て7〜8名と面接したものの、結果的に一人も採用に至らなかったことがあった。

造田氏:「結局全員ダメっていうような時があってですね。で、もう一度書類を全部出してきて、もう1回同じ作業をやって…。これは二度手間だなというのはずっとあったんです。」

書類の情報だけでは、応募者の人柄やポテンシャルを十分に把握できず、再公募、再選考を繰り返し実施することもあり、採用のミスマッチや非効率な業務フローの原因となっていた。

導入の決め手

決め手は、対話レベルの高さ

そんな中、AI面接を知ったのは偶然がきっかけだった。以前、担当者が情報収集のためにダウンロードしていた資料について、後任担当者のもとに一本の電話がかかってきたのだ。

話を聞き、デモ画面を見たところ、その精度に驚いたという。

造田氏:「実際にデモ画面を上司に見せたら、『ちゃんと受け答えできてるね。これなら一度試してみよう』と言ってくれて、すぐに導入を前向きに考えるようになりました。」

まずは比較的小規模な中途採用で効果を試し、その後に法人職員採用試験に導入する計画で、AI面接の活用はスタートした。

導入後の効果

採用工数40時間削減と選考の質向上を実現

AI面接導入の効果は、量的・質的の両面で顕著に表れている。

今年度の選考では、書類提出後、全応募者にAI面接を実施。書類とAI面接の結果を合わせて第一次選考を行った。これにより、従来と比べて全体で約40時間もの工数削減を達成した。

工数削減だけでなく、選考の質も向上した。これまでの第一次面接は面接官2名で実施していたが、AI面接では人事担当者4名で同時に録画データを確認し、多角的な視点から意見交換をしながら合否を判断できるようになった。

さらに、AI面接は新たな人材発掘にも貢献している。

宮崎氏:「これまでであれば書類選考で不合格としていた応募者でも、AI面接を通じて人柄の良さを確認できたことで、次の選考へ進んだというケースがありました。良い人材との出会いに繋がった好例です。」

これは、AI面接が応募者の潜在能力やコミュニケーション能力といった、書類だけでは計れない側面を可視化した成果と言えるだろう。

また、AIが各回答を要約する機能も高く評価されている。要約は的確にまとめられており、対面実施の第二次選考の参考資料としても有効活用されている。

また、応募者側のメリットも大きい。

造田氏:「応募者の中には遠方から来られる方もいますので、2回、3回とお呼びするというところで、経済的負担がかなり軽くなったというところもメリットかなと思っています。」

AI面接の導入は、採用の効率化だけでなく、質の向上と、応募者に寄り添う採用活動の実現にも繋がった。

今後の展望

事務採用から全学展開へ、AI面接活用の未来

香川大学では、今回の成功を受け、今後のさらなる活用に期待を寄せている。

造田氏:「まずは事務職員の採用から始めて、常勤職員も非常勤職員も含めて、今後は大学全体でAI面接を使っていけそうだと感じています。小さな面接でもAI面接を取り入れることで、採用しやすくなると思うので、全学的に広げていきたいです。」

さらに、事務職員だけでなく、障がい者採用や、附属病院職員の採用など、学内の様々な場面での活用も視野に入れている。

大学運営全体の効率化と質向上に貢献するツールとして、AIの活用はまだ始まったばかりだ。香川大学の先進的な挑戦は、これからも続いていく。